キックバックをやっても、二の腕に効いている感じがしない。「肘を固定しろ」と言われて、固めているつもりなのに何も変わらない。効いているのは肩の付け根で、二の腕ではない気がする。
パーソナルトレーニングをしていると、この相談をよく受けます。そして皆さん、決まって肘の話をします。「肘が動いちゃうんですよね」と。
私からすると、違います。効いていないのは肘のせいではありません。肩が固定できていないだけです。
累計17,000セッションの指導をしてきましたが、キックバックはこの状態になりやすい種目です。しかも、フォームだけ見ると正しく見えてしまうので、自分では気づけません。
まず、肘は本当に固定できているのか
解剖の話をする前に、確かめてほしいことがあります。
「肘を固定する」と言われて、何をしていますか?
ほとんどの人が、肘を上げて、肘に力を入れて固めようとします。それで合っているはずだ、と思いますよね。

でも、実際にやってみると分かります。肘をどれだけ固めても、肘の位置は下がります。
固定しているのが、肘ではないからです。肩で固定しているんです。肩の力が抜けた瞬間、肘は落ちます。腕が下がれば、伸ばしきったところで負荷が抜ける。これが「効かない」の正体です。
二の腕は、3つの筋肉でできている
ここからが仕組みの話です。

二の腕は、正式には上腕三頭筋といいます。名前のとおり、3つの筋肉が集まってできています。長頭・内側頭・外側頭の3つです。
3つとも覚える必要がありますか?
ありません。内側頭と外側頭は、ほとんど同じ動きをします。なので、この2つはまとめて考えて構いません。この記事では「短頭」と呼びます。三頭筋には長いのと短いのがある、くらいで十分です。
(「短頭」は分かりやすさのための呼び方で、正式な名前ではありません。正確には内側頭・外側頭です)
短頭と長頭は、始まる場所が違う
この2つは、ついている場所が違います。ここが今日の全部です。

短頭は、肘から腕の骨についています。だから肘を伸ばせば効きます。普段なんとなくトレーニングして「二の腕に効いた」と感じているのは、たいてい短頭のほうです。
一方の長頭は、肘から肩甲骨についています。腕の骨を飛び越えて、肩甲骨から始まっているんです。
なぜ、長頭だけ肩甲骨から始まっているのが重要なんですか?
肩甲骨から始まるということは、長頭は肩の関節をまたいでいるということです。肘だけの筋肉ではありません。

肘を伸ばす前から、長頭の仕事は始まっている
キックバックは、肘を上げて、腕を体の後ろに保つ姿勢を作ります。
この「腕を後ろに保っている」時点で、長頭はもう働いています。つまり、腕を伸ばす前から長頭のトレーニングは始まっているんです。伸ばす動作は、そこにさらに刺激を足しているだけ。
主役は肘ではなく、肩です。肘を固めることに集中している限り、この前半がまるごと抜け落ちます。
自分の腕で確かめてみてください
ここからは、読みながらできます。ダンベルもベンチ台も要りません。

長頭は、腕のどこにありますか?
片手で力こぶを作るポーズをとって、上腕の内側を反対の手で触ってください。そこが長頭です。触ったまま腕を下ろすと、長頭が腕の内側にあることが分かります。
場所が分かったら、キックバックの姿勢を作ります。肘を上げて、さっき触った所に指を置いたまま、肩を数センチ上に上げてみてください。
長頭が硬くなりませんか。
それが「肩に力が入っている状態」です。腕を伸ばしていないのに硬くなりました。つまり、肩に力を入れた=長頭に力が入った。この2つは同じことなんです。
その状態のまま腕を伸ばすと、三頭筋の内側にさらに刺激が入ります。これが正しい長頭の狙い方です。
「肩に力を入れる」が分からない人へ
肩に力が入っている状態を作ったことがない人は、数センチ上げても何も分からないと思います。そういう方は、この練習から始めてください。ここでもダンベルは使いません。
立って、気をつけの姿勢をとります。腕をまっすぐ伸ばしたまま、手を後ろに引いていく。さっきの長頭が硬くなるポイントが来ます。そこから数センチ上げると、一番硬くなる場所があります。あとは数センチ下げて、また上げてを10回くらい。
もっと高く上げたほうが効きますか?
いいえ。それより高く上げても長頭には入りますが、背中の筋肉にも入ってしまいます。範囲を狭くしたほうが、長頭の扱いが上手くなります。
何センチ上げるかは人によって違います。数字を真似するのではなく、指の下が硬くなるところを目印にしてください。それがあなたの数センチです。
これをやってからキックバックに戻ると、さっきより上手になっているはずです。
なぜベンチ台を勧めるのか
キックバックには、両手同時にやるパターンと、片手をベンチ台についてやるパターンがあります。私はベンチ台を使うほうを勧めています。理由は2つです。
ひとつは、片手ずつやったほうが、いつ力が抜けるのかが分かるからです。分かればフォームは作れます。
立ったままやってはいけませんか?
禁止ではありませんが、勧めません。三頭筋を効率よく鍛えるには肘を高く上げる必要があって、そのためには体が床と水平になっているほうがやりやすいからです。
これを立った状態で作ろうとすると、フォームが固まっていない人は肩がすくみます。それが原因で肩が凝る人がいます。同じ理由で、前屈みを腰で支えて腰を痛める人もいます。家でやるなら、椅子でも構いません。
長頭だけを見ればいい理由
この記事は長頭の話に絞りました。理由があります。
長頭に入っていれば、三頭筋全部に入っています。だからトレーニング中は、内側の長頭だけを意識してください。短頭だけを狙う種目もありますが、今は知らなくて大丈夫です。
そして長頭は、肩甲骨につながっている
長頭は、肘と肩甲骨をつないでいる1個の筋肉です。
肩甲骨についている筋肉は、17個あります。そして、その一人一人が仕事を完璧にこなしているわけではありません。だから、個別に動かせるようにしていく必要があります。ここを全部動かせるようになると、肩や首まわりの悩みが減ります。
以前書いた前鋸筋の話も、肩甲骨につく筋肉のひとつです。腕の力が背骨まで届いていない、という話でした。今回の長頭は、そこから数えて次の1本になります。
まとめ
キックバックが二の腕に効かないのは、肘の固定が甘いからではなく、肩で固定できていないだけ。長頭だけが肩甲骨から始まっているので、腕を後ろに保っている時点でもう仕事は始まっています。まずは腕の内側を触って、肩を数センチ上げて硬くなるのを確かめるところから始めてください。
最後に、私の動画も記事も全部そうなんですが、単語は覚えなくて大丈夫です。長頭という名前は忘れてもらって構いません。「肘じゃなくて肩」という雰囲気だけ、持ち帰ってください。
動画で見る(実技つき)
2つのキックバックの比較映像、三頭筋の解剖図、触って確かめる実技、ダンベルを使わない練習のやり方は動画で見られます。
身体は筋肉ではなく、物理現象として読み解く。これが「運動的IQ」です。身体の使い方を、どの動画から見ても学べる運動の教科書を、数年かけて作っています。
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