プランクをやっても、お腹に入っている感じがしない。しばらくすると、お腹より先に腕が疲れてくる。
パーソナルトレーニングをしていると、この相談をよく受けます。そして皆さん、決まって同じことを言います。「体幹が弱いんですかね」と。
私からすると、違います。腹筋が弱いんじゃありません。腕の力が、背骨まで届いていないだけです。
累計17,000セッションの指導をしてきましたが、この状態の人は本当に多いです。しかも厄介なことに、普通の腹筋(縦のクランチ)だけは問題なくできてしまうので、自分では気づけません。
まず、電車の吊り革で試してみてください
解剖の話をする前に、先に体感してもらいます。
吊り革は、どこで捕まっていますか?
電車で吊り革に捕まるとき、どこで体を支えていますか。
そう聞かれると、ほとんどの人が「腕に決まっている」と答えます。私は違います。私は肩甲骨で捕まっています。
そして、これが腹筋の話につながります。
プランクとクランチ、何が違うのか
同じ腹筋の種目なのに、クランチはお腹に入る感じがあって、プランクは効いている感じがしない。この違いはどこから来るのか。
並べてみると、はっきりします。
- クランチは動く/プランクは動かない
- クランチは仰向け/プランクはうつ伏せ
- クランチは手が空中にある/プランクは手が床についている
キーワードは「床についている」
3つ目が今日の話の入口です。手が床についているかどうかで、体の支え方がまったく変わります。
試しに、今すぐプランクをやってみてください。肘をついて、膝もついて構いません。お腹に力を入れる必要もありません。
その状態で、体重がどこに乗っているかを感じてみてください。腕でしょうか。背中でしょうか。
答えは肩甲骨です。ここで「腕に乗っている」と感じた人、あるいは何も分からなかった人は、この先が本題になります。
腕を使うときは、4チームで支えている
ここからが仕組みの話です。
腕で押したり、引っ張ったり、体重をかけたりするとき、体は単独では支えていません。腕・前鋸筋・肋骨・背骨(胸椎)、この4つがセットで支え合っています。
以前、腹筋は「骨盤・腹筋・肋骨・胸椎」の4チームで動くという話を書きました。今日はそれとは別の、腕を使うときの4人です。
前鋸筋は、力を「伝える係」
前鋸筋(ぜんきょきん)は、肩甲骨と肋骨をつないでいる筋肉です。場所は脇の下から、脇腹のあたり。体の横にあります。
前鋸筋は何をしている筋肉ですか?
仕事は名前のとおりで、腕に伝わった力を、肋骨に伝えることです。サッカーで言えばボランチ、バレーボールで言えばセッター。自分で点を取る選手ではなく、つなぐ選手です。
そして肋骨は、背骨から出ている骨です。だから腕にかかった力は、前鋸筋を経由して肋骨へ、肋骨から背骨へと流れていきます。4人全体に分散するので、腕だけが極端に疲れるということが起きません。
前鋸筋が働いていないと、どうなりますか?
パスが出ません。腕にかけた力が、肋骨から先へ進まなくなります。
サッカーでディフェンスがどれだけ上手くても、フォワードにパスが渡らなければ点は入りません。バレーでレシーブが上手くても、スパイクにつながらなければ同じです。
プランクをしていて「腕の力が抜けません」と言う人がいます。あれは腕の力み癖ではなく、腕の力を肋骨に渡せていない状態です。渡し先がないので、腕が持ち続けるしかない。だから腕だけが疲れます。
体幹トレーニングとは、何を指すのか
ここまで説明すると、やっと言える話があります。
「体幹トレーニングって何ですか」とよく聞かれます。私の定義はこうです。背骨か骨盤を必ず経由するトレーニング、それが体幹トレーニングです。
プランクが1分できれば体幹が強いですか?
そうとは限りません。前鋸筋が仕事をせず、腕だけで頑張って背骨を経由していないなら、私はそれを体幹トレーニングだとは考えていません。
秒数の問題ではないんです。力がどこを通っているか、の問題です。
斜めクランチだけ入らない理由
ここで、最初に置いた疑問に戻ります。
「手が床についているかどうか」で線を引きましたが、そうすると説明がつかない種目があります。斜めクランチです。ぶら下がってもいないし、手で床を押してもいない。それなのに、縦のクランチはできるのに斜めクランチだけ入らない、という人がとても多い。
横腹と前鋸筋は、つながっています
横腹(腹斜筋)は、骨盤から肋骨につながっています。そして前鋸筋は、肋骨から肩甲骨につながっています。2つは肋骨で地続きなんです。
だから、横腹のトレーニングであっても、前鋸筋が使えていないと効かせることができません。ここは文章だけだと伝わりにくいところなので、解剖の写真を3枚並べて動画で解説しています。
整理すると、線は「床についているか」ではなく「肩甲骨に逃げ道ができるか」です。手をつく種目(プランク・キャットバック・吊り革)も、捻る種目(斜めクランチ)も、肩甲骨に逃げ道ができます。そこで前鋸筋が肩甲骨を肋骨に留めていないと、力が逃げます。
縦のクランチだけは肩甲骨が関係しません。だから今まで気づかなかったんです。
やることは1つ。脇を触って、肩甲骨を下げる
前鋸筋は、他の筋肉と少し違います。負荷をかけて鍛えるより先に、「感じる」ことから始まります。動かす筋肉ではなく、力を伝える筋肉なので、ほとんど動きません。感覚としては制御に近いです。
やり方
片腕を上げて、もう片方の手で脇の下を触ります。その状態で、肩甲骨を下げてください。
脇のちょっと下が硬くなるのが分かりますか。それが前鋸筋です。
分からなければ、腕の角度を変えてみてください。どこか1つ、分かる角度があるはずです。その角度で、硬くする・力を抜くを繰り返す。これだけです。慣れると、どの角度でもできるようになります。
できているか確かめる方法
椅子に座って(立ったままでも構いません)、背中をまっすぐにします。右手を上げて、左手で前鋸筋を触り、固めた状態のまま左に体を捻ってみてください。
右の横腹がつらくなるはずです。次に、前鋸筋の力を抜いて同じように捻ると、横腹をほとんど感じないと思います。同じ動きなのに、前鋸筋が入っているかどうかで別物になります。
週1回では上手くなりません
正直に言うと、この練習は週1回や2回では上手くなりにくいです。筋肉を大きくする種目ではなく、感覚を思い出す練習だからです。
なので、思い立ったときにやってください。仕事の合間でも、休憩中でも構いません。私は電車で通勤していた頃、吊り革に捕まりながら毎日練習していました。腕を上げているので、絶好の機会なんです。冗談抜きで毎日やっていて、おかげで懸垂が上手になりました。
100%ではなく、10%を出せるように
もう一段だけ、先の話をします。
筋肉が動く範囲と、自分で制御できる範囲は違います。力を入れること自体はできるのに、加減ができない人がとても多い。0から100まで動かせるのに、制御できるのは0と90〜100だけ、という状態です。力を抜いた状態から入れにいくと、いきなり90くらいになってしまう。本当は10くらいで使いたいのに。
前回書いたキャットバックも同じです。四つん這いで手が床についているので、前鋸筋の制御が必要になります。100%の力で押し込むと肩が前に出てしまう。だから10%、20%と加減できる力が要ります。
できないのではなく、忘れているだけ
「自分にはできない」と言われることがあります。ここははっきり誤解を解いておきます。
皆さん、赤ちゃんや子どもの頃はできていました。忘れているだけです。だから、思い出すだけなんです。
忘れていた期間が長いほど時間はかかりますが、60代でできるようになった方も多くいます。そこは安心してください。
この前鋸筋が、実際の種目でどう効いてくるかの例を1本書きました。→ クラムシェルでお尻に入らない人へ|スマホを持ってやると入る理由
まとめ
プランクが効かないのは、腹筋が弱いからではなく、腕の力が背骨まで届いていないだけ。伝えているのは前鋸筋です。まずは脇を触って、硬くする・力を抜くを繰り返すところから始めてください。
最後に、私の動画も記事も全部そうなんですが、単語は覚えなくて大丈夫です。前鋸筋という名前は忘れてもらって構いません。「腕の力が背骨に届くとお腹に入る」という雰囲気だけ、持ち帰ってください。
動画で見る(実技つき)
腕でぶら下がった時と前鋸筋でぶら下がった時の比較映像、横腹と前鋸筋がつながっている解剖の写真、実際の練習のやり方は動画で見られます。
身体は筋肉ではなく、物理現象として読み解く。これが「運動的IQ」です。身体の使い方を、どの動画から見ても学べる運動の教科書を、数年かけて作っています。
体験・お問い合わせはトレーニングジム PUTTERS(栃木県小山市)まで。

コメント
コメント一覧 (1件)
[…] 何が起きているかというと、肩甲骨と肋骨にくっついている「前鋸筋」という筋肉が関わってきます。キャットバックを極めるにも、腹筋を極めるにも、この筋肉が必要になります。この話はプランクが効かない本当の理由(前鋸筋)で詳しく書きました。 […]